備後畳表の特質

 日本の畳表の歴史を語るとき、それは備後畳表の歴史と重なると言えます(備後畳表の歴史の項を参照してください)。とりわけ高級畳表の代名詞として備後畳表がなぜ称されてきたかを考えてみると、そこには二つの要因が存在しています。

 一つには広島県備後地方の持っている藺草栽培に最適な気候風土にあります。冬の寒さのなかでの藺田植え、春のぬくもりを受けての成長、梅雨の雨が恵んでくれる藺草の伸長、梅雨明けの暑さのなかでの藺草の刈り取り、爽やかな秋空の元で始まる畳表の製織、まさに日本の四季が一枚の畳表には織り込まれているのです。そして山の養分と海の栄養をふんだんに含んでいる土に有機質の肥料を大量に与えられ育てられた備後の藺草の品質は、ほかに比べる物のない高品質を備えています。@弾力性に富み粘りがあるA藺草の内部が十分に充実し良く熟しているB光沢が良く使用するほどに落ち着きと気品がでてきて美しい飴色(黄金色)になるなど、他の生産地で栽培されている物とのその品質の違いは消費地でのエンドユーザーの皆さんや畳屋さんにおいて支持と好感を受け続けてきました。

 二つに畳表の歴史のなかで常に先頭をきってきた製織技術の蓄積にあります。手織の時代に発明された中継ぎ表の製織技術(現在も備後において継承されている)を始め、現在の動力による製織においても弾力と腰の強さを備えた畳表を織り上げる技術は、他の追随を許さない物があります。

 その様に製造されている備後畳表には次のような特質と良さがあります。

@一枚あたりの藺草の使用量が多く厚みがあり、重厚感があり耐久性に優れています。

A織物の原理にあった動力織機を使用しているので、太番手の麻縦糸と藺草の強さを十分に生かし切った腰の強い畳表に仕上がっています。

B使用している藺草自体が弾力性と粘りに富んでいるので、上を歩いたときの使用感が良く足の裏に柔らかな感触を与えます。

C十分に有機質の養分を蓄えた藺草を使用しているので、畳として使用すると藺草本来の持っている色合いや光沢の持ちが良いのはもちろんのこと艶が増してきます。

D備後畳表は落ち着きのある色合いに仕上がっているので、新しい時も数年使用した後でも日本の家屋・部屋にしっくりとあい落ち着きのある住空間を演出してくれます。

E広島県では、畳表の日本農林規格が制定されるより前から、数ある畳表の産地のなかで唯一県の制定した条例にもとづいて研修を受けた検査員が規格に合わせて厳格な検査を行っております。(そのことが消費地の信頼を受けてきたことの一つの理由になっています)

 なお、今では、備後地方の藺草の生産量が減少(現在増反に努めています)しているため畳表を生産するための必要量に不足する状態ですので、熊本県産・高知県産を中心に藺草を移入して生産している備後畳表もあります。前述のように、長い経験と良い藺草を選び抜ける目を保持している備後の畳表生産者は、備後地草(最高級といわれている備後地方で生産された藺草)に準ずる良質な藺草を購入して、消費者の皆さんの期待に背かない品質の備後畳表を供給しています。

 日本のなかで畳表の産地としては広島県備後地方のほかに、熊本県肥後・福岡県筑紫・高知県土佐・岡山県備中・石川県小松などがあります。各々特徴のある畳表が生産されていますが、備後で生産されている備後畳表の名声が一段と高いのは、豊臣秀吉の時代から御用表・献上表として使用されてきた歴史の重みとその重みに負けない研鑽と努力を重ねてきたからに他なりません。歴史と実績、そして今なお消費者の皆さまに絶大なる支持を受けているその品質こそが誇り得るものと思っています。


HOME