農業全書

江戸時代の栽培法は種々の記録に残されている。
その中で最も詳細に記されているのが、宮崎安貞の『農業全書』で、
備後地方の藺作法が全国の中で最も進んだものとして紹介されている。以下その要点を表に示す。

 

備後に作る法として紹介された藺草栽培方法

刈取て二番を生立置て用ゆるなり。又は、一番をからずして其のまゝ置て苗とするもよし。

苗をおこし古根を去、稲の苗をとるがごとく一手づつたばね。

田拵え

藺植え

塊少もなく細かにくだき熟しをきたるに、山草其外地の和らぐ物を多く入れ、水をためおき、よくかきならし、十月初うゆるを上時とし、それより段々十二月までうゆるなり。十本許を一株にとりて間三寸ほど宛うゆるべし。
管理

(施肥)

(害虫駆除)

熱糞を上より切々うつべし。四月までの間十遍ばかり糞を入れるを上功とするなり。

三月の頃は、山のわかき草柴など出来るを多く刈取てつみをき是をすさわらのごとく細かに切て物をおほひ置むせたる時きりてくだきて苗の上よりふるいかくべし。いかほどおほきにあきはなし。

いなご出来る時になりては、稲の有方の畦にわらかこもにてかきをゆひ螽をよくふせぐべし。又は竹竿を持てをひはらひたるもよし。

藺草刈り 六月土用にいりて、日和を見合せ、ゆうたちもすまじき晴天によくきるるうす鎌にて稲をかるごとくかりて其まますぐり、地をほりて其中にて白き泥を濁酒のごとくとき、右の藺を此泥にひたしまぶし、きれいなる芝原ある所ならばうすくひろげ干すべし。

二日ばかりにてよく干る物なり。其時凡二尺五寸縄にてたばね、色よきわらか小麦わらにて包み、すゝけざる所に棚をかき上おくなり。
跡植え 六月刈取藺のかぶをぬき去、跡を其まゝ耕して、かねて晩稲の苗を仕立をき早速うえて手入だんだん常のごとくすれば、大かた時分にうへたる稲にさのみはおとらず、霜ふりて刈取を言ふなり。
表打ち 上中下段ゑり分、よくそろいたるものを上とする。

女一人にて一日一夜に四はえ表を二枚うち上るを定とするなり。

『農業全書』の藺作法は、旧暦十月〜十二月の厳寒に水田に植付け、暑い土用に刈り取り、泥染し、晴天のもとで干し、刈り取り跡へ稲を植える。
これらの工程は、現在の藺作法とそれほど変わっていないが、詳細にみると、まだまだ原始的な栽培法といわざるを得ない。


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